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20230922読了:新藤真知,2011,『もっと知りたい パウル・クレー 生涯と作品』(東京美術)

 パウル・クレーの入門書として新藤真知,2011,『もっと知りたい パウル・クレー 生涯と作品』(東京美術)を読んだ。ニワカ勉強の一環。いくつか個人的に重要だと思った点を書き残すことにしたい。

 1)まず、その作品におけるチュニジア経験・体験の影響について。チュニジア旅行以前にクレーは自身の色彩を獲得していたと近年論じられているようだが、その色彩表現を「後押しするように、チュニジアの強烈な光が、クレーを自由な色彩へと導いた」ようである(p.28)。

 ヨーロッパ(ざっくり)の美術史に北アフリカ(ざっくり)が与えた大きな影響はクレーの作品に限ることではないと思うので、その影響や作用の流れに即してもう少し美術史を学んでみたいと思った(オリエンタリズムというか、その功罪も含めて)。

 それにしてもチュニジア旅行周辺の作品は、決して写実的とは言えないが、その土地の(とりわけ乾いた)空気、空間そのものを大胆な構成で描き出している。オリエンタリズム的な夢の世界と言ってしまえばそれまでかもしれないが、描き出されたものは夢物語ではなく、ある意味では本物?なのかもしれない。

 ちなみに1914年のチュニジア旅行から14年後の1928年、クレーはエジプトにも旅行している。チュニジアで得たものが「色彩」だとするならば、エジプトで得たものは「画面構成のダイナミズム」(p.54)になるようだ。

 2)次に、クレーの作品モチーフにおける「文字」の存在について。曰く、「自然を忠実に再現することを前提としたルネサンス絵画以降、画面から文字を排することが西洋絵画の伝統であった。クレーが絵画に文字を取り入れ始めた当時は、ヨーロッパ芸術における文字と絵画の関係の転換期であった」(p.40)とある。あまりにも美術史に疎いので、「自然の忠実な再現」と「画面からの文字の排除」が絵画表現において重なり合うことに思い至らなかった。目からウロコ。

 関連して、クレーにとっては、彼のヴァイオリニスト経験にも裏打ちされているであろう「ポリフォニー絵画」も重要な作品群となる。クレーは「絵画のなかにリズム(時間)を描こうとした」(p.52)ようである。「文字」(言うなれば言語)をどう絵として表すのか、そして「音楽」「リズム」をどう絵として表すのか。20世紀の絵画表現には、ごくごく素朴に言えばやはりそれまでの「伝統」とされている技法、対象、表現、構成などの相対化があるのだろう(とは思うが、世紀転換期にそれが一気に始まったのかどうかはよく知らず、複数の芸術運動や潮流をきちんと押さえる必要がありそうだ)。

 3)芸術運動という論点について。pp.14-5にかけて、短い紙幅ではあるが、19世紀末から20世紀初頭にかけてのそれが紹介されている。暗記ができないので必要に応じて読む程度の距離感で良いと思う(文化史、美術史はどちらかといえば苦手)。

 ちなみにクレー自身は若い頃、「青騎士」に一時期所属していた。それから、彼のキャリアを語る上で外せないのは、バウハウスでの教育と創作であろう。バウハウス時代の比較的初期(たぶん)に描かれた「セネキオ」は多分世間的にも有名で人気なのでは。色彩の鮮やかさはチュニジアの延長にありそう。